小さく始めるAI活用-宿泊産業での生成AIことはじめ
AIとお仕事と
ここ数年、人工知能(AI)が革新的な進化を遂げています。
皆さんの身近でも
「ChatGPTに今晩の夕食アイデアを相談した」
「Midjourneyに絵を描いてもらった」
などの声を聞いたことがあるかもしれませんね。
注:
ChatGPT…おしゃべり感覚で質問や相談に答えてくれるテキスト生成系AI
Midjourney…言葉で指示することで美麗なCGを生成してくれる画像生成系AI
これらの人工知能は、通称「生成AI」と呼ばれています。
生成AIとは、創作物を生み出してくれる人工知能、という意味です。
言葉で文章や画像を作り出してくれる…まるで魔法のような生成AI。
プライベートでの活用方法は色々と思いつきますよね。
でも、仕事(宿泊産業)ではどう活かせるの?
実のところこれが、皆さんの一番気になるところではないでしょうか。
そこで今回は「旅館やホテルなどの宿泊産業でどのように活かせるか」にフォーカスして解説してみます。
できるだけかみくだいて解説しますので、これまでAIに興味がなかった方々もぜひ読んでみてくださいね。
生成AIの種類
一言で「生成AI」と言っても、その種類は多岐にわたります。
ではこの生成AI、大きく分けてどんなものがあるのか。
まずはここから見ていきましょう。
- 画像系生成AI…言葉で指示を出すと美しい画像を生成してくれます。
- 動画系生成AI…写真やテキストを元に動画を生成してくれます。ゲーム業界や映画業界での活用が期待されています。
- 音楽系生成AI…雰囲気、ジャンル、楽器、演奏時間などの指示を出すと要望どおりの音楽を作曲してくれます。
- テキスト系生成AI…チャット形式で質問や指示を出すと、それに答える形で文章を生成してくれます。
「1つの生成AIが何でもやってくれる」というよりは、ジャンルごとの分業制になっていると考えてみてください。
画像、動画、音楽、文章。
それぞれ得意分野が異なるAIさんたちが各分野で活躍している、というイメージですね。
画像系生成AIの活用例
画像系生成AIから活用例を見ていきましょう。
具体的な活用方法は、以下のようなケースが考えられます。
- 絵画を描いてもらう
- デザインイメージを作ってもらう
▼1.について
たとえばロビーや廊下、お部屋などに飾る絵を描いてもらうのはいかがでしょう。
AIに描いてもらう場合、日本語または英語で命令する(描いてほしいものを依頼する)という方法が一般的です。
一例を挙げてみましょう。
大きな湖の風景を印象派風の筆致で描いてください。
季節は春。湖にはボートが浮かんでおり、そのほとりには散歩している老夫婦がいます。
誰もが安心感を得られるようなほのぼのした雰囲気でお願いします。
※実際にAI(StableDiffusion)で生成しました
▼2.について
客室をリニューアルするとき。イメージを一から構成するのは大変ですよね。
そこで、デザイン案をAIに作ってもらいましょう。
以下は、命令の一例です。
和モダンをテーマにした家族向けの客室デザインを4つ生成してください。
「これ」というものが見つかるまでは何度もチャレンジする必要があるかもしれません。
まずは4つ生成してもらい、方向性を決めていくというのがオススメの方法です。
※実際にAI(StableDiffusion)で生成しました
ちなみに、画像生成系AIの代表格としては以下のようなものがあります。
- Stable Diffusion
- Midjourney
- DALL・E2
※2023年7月時点で「Stable Diffusion」は完全無料です。他の2つは有料プランがあるためご注意ください。
また、商用利用の可否につきましては利用許諾等でご確認ください。
動画系生成AIの活用例
動画系生成AIの使い道としては、以下のようなケースが考えられます。
- 宿泊施設のプロモーション動画生成(Web広告やSNSでの活用)
- サービス紹介動画生成(Webサイトでの活用)
ただし他の生成AIと比較して以下のような特徴があります。
- 発展途上である
- 専門性が高く「誰もが簡単に」使えるわけではない
これらを踏まえると現時点での活用難易度は高めと言わざるを得ません。
ちなみに私自身、画像系・音楽系・テキスト系は一通り体験しましたが動画系までは手が届いていません…。
音楽系生成AIの活用例
音楽系生成AIの活用方法としては、以下のような例が考えられます。
- 施設BGMの生成
- イベントBGMの生成
▼1.について
ロビーやレストランで流すBGMを生成してもらう、というのはいかがでしょう。
貴館のコンセプトにマッチしたオリジナル音楽を流すことができます。
たとえば「クラシック風 ピアノ ゆったり 30分」などの命令を出してBGMを生成してもらいます。
※音楽系生成AIの命令方法はAIモデルによって異なります
▼2.について
イベントの演出用BGMを生成してもらうというアイデアもオススメです。
旅館やホテルで催されるイベントは多種多様。
イベントの雰囲気に合った商用利用可能なBGMを探すのは大変ですよね。そんなときはAIを頼ってしまいましょう。
「サプライズ 結婚記念日 ハッピー 1分」
こんな命令を出して短めの曲を作ってもらいます。
既存の音楽素材を使うのではなく、そのシチュエーションにぴったりのものをその場で作曲してもらうので、「どこにもないオリジナルの曲」を流すことができます。
音楽系生成AIは現在、様々なモデルが乱立している状態で「代表格」と言えるものがありません。
ここでは私が利用したことのあるモデルのみご紹介させていただきます。
- SOUNDRAW
有料サービスではありますが、無料トライアルが用意されています。
商用利用も可能で、生成した音楽データは解約後も利用できますよ。

テキスト系生成AIの活用例
最後にテキスト系生成AIの活用方法をご紹介します。
旅館やホテルでの活用としては、これがもっとも幅広く活用できるかもしれません。
それでは4つのシーンごとに分類して、活用例を見ていきましょう。
Webサイト
- 宿泊施設の紹介文作成
- FAQの作成
- ブログ記事の作成
【命令の例:紹介文作成】
旅館のWebサイトをリニューアルしようとしています。トップページに載せるキャッチコピーを5点考えてください。
当館の魅力は以下です。
- 明治時代の建物をリノベーションした風格のある宿
- ○○温泉郷でもっとも標高が高いため景観が良い
- その日の朝に採れた新鮮な山菜を使った料理の評判が良い
ほんの十数秒ですらすらと生成してくれます。
ただし、こうした原稿の作成については、厳密には「作成支援」と考えた方が良いでしょう。
私もいくつかのテキスト系生成AIを試しましたが、そのまま使えるような完璧な原稿ができあがることはほとんどありませんでした。
生成された原稿をもとに手直ししていく、くらいのつもりで活用するのがオススメです。

SNS
- Twitterのツイート原稿作成
- SNSや口コミの返信
【命令の例:SNSや口コミの返信】
「****ということがあり、少し残念な宿でした」
上記のような口コミをいただきました。
ご指摘をいただいたお礼の気持ちと、これにこりずまた来てほしいということを失礼なく伝えたいので文例を作ってください。
単に「謝罪文を作ってください」と命令するのではなく、どんな思いを伝えたいかを命令に含めることが大切です。
機械(AI)の作る文章は文字通りどうしても機械的になりがちです。ご自身の持つ思いを上手に伝えるための支援機能(言い回しを教えてもらう)と考えましょう。

マーケティング
- ダイレクトメールの原稿作成
- ポスターのキャッチコピー作成
【命令の例:DMの原稿作成】
常連のお客様にダイレクトメールを送ります。
以下の内容を含む文面を作ってください。
・日頃のご愛顧へのお礼
・夏になり、○○の滝の新緑が綺麗になったこと
・新しいプランができたこと
・リフレッシュしにきてほしいという思い
文体は格式張らず、失礼になりすぎないようにしてください。
生成AIは、マーケティング系の文章作成は得意分野です。
もちろん、不備や語弊がないかを人の目でチェックする必要はあります。
ユーザーエクスペリエンス
- お客様のニーズや地域の観光情報を加味した旅程のプランニング
- お客様の母国語による案内板の準備
【命令の例:旅程のプランニング】
東京から新潟県の岩室に旅行に来たお客様向けの2泊3日の旅程プランを考えてみてください。
生成AIによるプランニングも精度の信頼性は高く、オススメの使い方の1つです。お客様の年齢(お子様連れ、高齢である等)や趣味趣向を条件に含めると、更にカスタマイズできます。

以上、簡単ではありますが、テキスト系生成AIの活用方法を分類別にご紹介しました。
かなりバリエーション豊富なことがおわかりいただけたのではないでしょうか。
ちなみにテキスト系生成AIの代表格は以下3つです。
- ChatGPT
- Google Bard
- Bing
※料金や商用利用の可否についてはご確認ください
得られる効果と注意点
ここまで、簡単ではありますが画像系、動画系、音楽系、テキスト系の各生成AIについて、宿泊産業での活用方法のアイデアを見てきました。
考えうる期待効果としては以下のようなものがあります。
- 経費削減…人間がイチから作るよりも経費(人件費)がかかりません
- 時短…人間がイチから作るよりも短時間で済みます
- 品質の向上…AIの得意分野であれば人力以上の品質が期待できます
- CSの向上…結果的にお客様の満足度向上に貢献できます
こうして挙げてみると、良いことばかりのようですね。
しかし、注意点もあります。
たとえば、以下のような点は特に注意しましょう
- 利用にはいくらかかるのか(本当にコストに見合うのか)
- 著作権上の問題はないか
- 商用利用は可能か
- 生成されたものに「間違い」はないか
▼1.について
生成AIは無料から使えるものも多いですが、機能性や自由度を求めると有料になることも多々あります。
人間が生成するよりはるかに低コストになる事が多いですが、本当にかけるコストに見合うかは慎重に判断しましょう。
▼2.について
AIが生成したものは、世の中に「すでにあるもの」が元になっています。
生成された画像が既存の画像に「似すぎている」場合、著作権上の問題が発生することもあります。
▼3.について
「生成や私的利用は無料、ただし商用利用時には有料になる」というサービスもあります。
利用規約を確認し、抵触しないよう気をつけましょう。
▼4.について
生成されたものが完璧とは限りません。文章が事実を述べていなかったり、画像が破綻していたりすることもあります。人間がその目でチェックすることを習慣にしましょう。
生成AIを使いこなすコツ
最後に、これらの生成AIを使いこなすコツについてお話しします。
生成AIの作り出す成果物の「でき」は命令の仕方次第で大きく変わります。
たとえば以下の2つでは得られる結果がまるで違います。
- のどぐろがとても美味しいことを上手に伝えてください。
- あなたはグルメレポート記者です。のどぐろの美味しさを、食べたことのない人にも伝わる表現の短い文章で伝えてみてください。
生成AIは一見魔法のようですが、もちろん魔法ではありません。道具の一種です。
画材用具も裁縫道具も、その使い方次第で絵や洋服の「でき」が変わってきますよね。
適切な使い方を習得し、うまく活用することできっと普段の業務を「進化」させることができるでしょう。
ここでご紹介した生成AIは、有料のものも含め、比較的お手軽に試せるものばかりです。
皆さんも小さく始めて、大きな進化の可能性を覗き見てみませんか?