【コールセンター裏話】言ってはいけない質問
【質問すること】が仕事でした
「良い質問」について考える事は「良くない質問」を考える事である。
それを避けていれば自ずと良い質問に近づくのだから。(クリアン)
今回は格言(?)から始めてみました^^
上の言葉は、カスタマーサポートのスタッフとして20年、のべ9万人以上を対応してきた私が考えたものです。
カスタマーサポートというと「お客様の質問を受ける」というイメージが強いかもしれません。
しかし、製品の使用方法のご案内や問題解決が専門の「テクニカルサポート」という分野では、「お客様の身に何が起きているのか」を把握することが会話全体の大部分を占めています。
何が起きているのかを知るためには、尋ねて情報を得なければなりません。
つまり、主な業務は「質問すること」なんです。
今回は少しだけアンケートを離れ、私がサポートの現場で実際に見聞きした「よくない質問」についてお話します。
今回のお話を通して「質問」というものの奥深さについて考えるきっかけになれば幸いです。
※以下はすべて、パソコンやスマホなどの情報機器を扱うサポートセンターを想定しています。
「何をしたんですか?」
「何もしていません」の心理
「何をされたらこうなりましたか?」
こう質問されたとき、お客様の答えはほぼ決まっています。
「何もしていないのにこうなった」
心当たりがない場合は、もちろんこう答えますよね。
では、心当たりがある場合はどうでしょう?
自分のせいだと思われたくないので、やはり「何もしていない」となります。
もちろん、全員が全員ではありません。
そしてそう言いたくなる方の気持ちもわかります。
私も相手の雰囲気次第では言ってしまうかもしれません。。
原因が知りたいだけなんです
ここからは、質問する側の立場でお話します。
サポートする側が知りたいのは「誰のせいか」ではありません。もちろんお客様を責めるつもりなんてありません。
知りたいことはただひとつ。「何が原因か」なんです。
これはお客様が抱えているトラブルを解決するためのヒアリングですから。
原因さえわかれば解決の糸口になりやすいものなんです。
だから、聞き方を工夫します。
意図を伝えつつ質問するのが正解です。
たとえば…
「このようになってしまったきっかけはございますか?
もし直前にされた操作などがわかれば、解決の手がかりになることが多いのですが」
この聞き方であれば「なるほど、解決につながるなら話してみよう」と思っていただけます。
ポイントは、人ではなく「もの」「現象」「行為」に焦点を当てることです。
「ご不明な点は何ですか?」
焦点をずらす
「ご不明な点はなんですか?」
この質問は一見、問題なさそうですね。
でも、もっと良くなります。
多くの場合、テクニカルサポートに問い合わせるお客様は何がわからないか自体がわからずに困っています。
サポートスタッフに対してどう尋ねて良いかもわからない、というケースも少なくありません。
だから、少しでも答えやすくなるように、こう聞くのがオススメです。
「どのようにお困りですか?」
自分が困っている状態を説明するだけならば、ハードルが下がりますよね。
「パソコンが動かない」
「スマホが昨日から調子悪い」
こんな答えが返ってきそうですね。
もちろん、この情報だけでは解決できません。
でも、この第一歩がとても大切なんです。
広がっていく質問
上のような情報さえあれば、プロのサポートスタッフは、これを起点に様々な質問を繰り広げられます。
たとえば「パソコンが動かない」に対しては以下のような質問が考えられます。
- それはいつからですか?
- 電源は入りますか?
- 画面には何かエラーが出ていますか?
- 直前にした操作はなんですか?
そして「スマホが昨日から調子悪い」に対しては、以下のような質問が考えられます。
- 電話はかけられますか?
- 電話は受けられますか?
- タッチ操作は可能ですか?
- インターネットのニュースなどは見られますか?
- Twitterなどのアプリは立ち上がりますか?
- 何か普段とは違う画面(エラー等)が出ていますか?
たくさん挙げてみました。
どの質問も、お困りのお客様であっても答えやすいのではないでしょうか。
簡単な一問一答を繰り返していけば、緊張もほどけ、口も心も軽くなります。
そして得られる情報も多くなり、それだけ解決に近づきます。
コミュニケーションが円滑に進むことは、いつだって問題解決の近道なんです。
「ご購入日と機械番号をお聞かせください」
メーカーサポートではお決まりの質問
皆さまも家電や情報機器のサポートにかけて、こんなふうに聞かれたことがあるのではないでしょうか。
この質問自体にはまったく問題はありません。ただこの質問は、聞くタイミングがとても難しいんです。
唐突に購入日や機械番号を聞かれたとき、あまり良い気分はしませんよね。
「それを聞いてどうするの?」
ついそう思ってしまいます。
これはなぜか。
困って電話しているのに、一見、解決のためとは思えない質問に感じられるからです。
つまり相手のニーズにかけ離れた質問になってしまっているんですね。
順序を変えて、理由を沿えて
こちら(サポート)側としては知っておきたい事情もありますが、この質問は、後回しにします。少し優先度を下げる、ということです。
お客様にとって「なぜ聞いてくるのか」がわかりやすく、かつ私たちとしても意味のある質問を先にするようにします。
意味がありつつわかりやすい質問とは、いったいどんな質問でしょうか。
それは、先に挙げたような「きっかけ」や「お困りの点」を聞くような質問です。
その線でヒアリングを進めていく中で「修理が必要かもしれない」と思ったときに、理由を添えて聞きます。
「ご購入日によっては無料で修理できるかもしれませんので…」
「ご登録があれば、お客様のお時間を奪わずに済みますので…」
このように目的や、お客様自身のメリットがわかれば答えやすくもなります。
「よくない質問」の共通点
以上、3つの「よくない質問」を見てきました。どのようにすれば「よくなるのか」も併せて解説してきました。
これらすべてに共通するのは、聞く相手への配慮です。
相手は生身の人間であること。
気持ち次第で答えは変わるかもしれないし、答えてすらいただけないかもしれません。
生身の人間であるからこそ、完璧な「聞き方」はないのかもしれません。
今回ご紹介した「こうした方がより良いです」という聞き方も、きっといつでも正解とは限りません。
共有する時間を、お互いにとって価値のあるものにするために、質問を磨き続ける。
これが、私が今まで20年かけてやってきたことです。
そしてその信条を大切にしながら、アンケートの設問を作っています。
今回は、宿泊者アンケートとは少し離れたお話をさせていただきました。
しかし上でお伝えしたことは、広くお客様対応に共通する考え方だと思っています。
お宿での宿泊客様の応対の際に少しでもご参考になりますように
…と願いつつ今回は筆を置きます。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。