旅館・ホテルの業務を改善する「問い」の発明
会議でのモヤモヤ。その正体
まずはこの言葉をご紹介します。
解決策がわからないのではない。問いがわかっていないのだ。
//ギルバート・ケイス・チェスタトン
推理小説「ブラウン神父」シリーズの作家であるG・K・チェスタトンの言葉です。
私はこの言葉を初めて聞いたとき「そう、それ!」と思わず呟いてしまいました。
小学校の学級会。
高校の部活ミーティング。
大学のゼミ。
会社の会議。
思い返せばあらゆる「問題解決」の場面で、時折感じていたモヤモヤの原因はまさにそれだったのだろう、と思うのです。
30年越しに考える「問い」
たとえば、小学生時代。
学級会でこんな議題が挙がったことがありました。
「友達をあだ名で呼ぶことはやめよう」
今では「あだ名禁止」の学校もあるようですが、当時はあだ名で呼び合うのはとても一般的なことでした。
この議題が出た背景はこうです。
ある朗読の授業中。ちょっとした読み間違いがきっかけで不本意なあだ名がついてしまった子がいたのです。
仮にA君としましょう。このA君が嫌がっているのを見かねた子が学級会の議題として上のようなテーマを提出したというわけです。
つまり、A君がイヤな思いをしないための解決策として「あだ名禁止」が提案されたわけです。
でもこれには弊害もありました。
今まで親しみを込めて「タックン」「シーヤン」などと呼んでいた仲間たち。
その日から「拓真くん」「茂充くん」と呼び合わなければならなくなり、なんだか急によそよそしい雰囲気になってしまいました。
これはまさに「問い」がわかっていない状態だったと言えるでしょう。
解決したい問題自体に気を取られてしまい、「問い」を作ることなく答えに直行してしまった例です。
今、この問題に対し、私が「問い」を考えるとすればこうです
- 人をイヤな気持ちにさせてしまう呼び名って、どんなもの?
- その呼び方で呼ばれたら、自分だったらどう感じる?
- あだ名で呼ぶことの「長所」と「短所」って、なんだろう?
こうした「問い」を浮かべ、その答えを探ることが本当の問題解決につながるはずです。
特定の子の問題を想起する議題はとてもセンシティブなものなので、実際に学級会で扱うべきかどうかは微妙です。
しかし少なくとも解決策を考える前に必要な「問い」としては、上のような取り組みが良いと私は考えます。
沈黙を生む「大きな問い」
さて、ここからは宿泊者アンケートの話です。
- 人手不足
- 施設の老朽化
- コロナ禍による宿泊客の減少
旅館やホテルなどの宿泊施設の抱える課題は様々です。
目の前にある問題について解決策を考える場合、すぐに「どうすればよいだろう?」と考えがちなものです。
「どうすればよいか?」
解決策を考える前にちゃんと「問い」を起こしているので、一見すると順序としては正しく思えます。
しかしこの問いでは、スケールが大きすぎて、答えが見つけにくいのです。
会議の風景を想像してみましょう。
ホワイトボードに「人手不足」と書かれています。
議長が出席者にこう投げかけます。
「どうすればよいですか?」
参加者の口は重く、気まずい沈黙が訪れそうですね。。
問いを小さくする
こんなときは、もう少し小さな「問い」を考えてみるのがオススメです。
試しに「人手不足」という問題に対する小さな「問い」を3つほど考えてみました。
- 【問いA】人手不足とは、「何」に対して「何」が足りないこと?
答え:「すべきこと」に対して「やれる人」が足りない
新たな問い1:「すべきこと」は減らせないのか?
→無駄な作業はないか? 業務の棚卸しをしてみよう
新たな問い2:どの作業に時間がかかっているのか?
→時間がかかる作業をピックアップし効率化しよう
新たな問い3:増員はせずその作業を「やれる人」は増やせないのか?
→ノウハウを標準化して他のスタッフに共有しよう
- 【問いB】そもそも人が辞めてしまうのはなぜか?
答え:退職の理由や原因は人それぞれ異なる
新たな問い:退職原因は何が多い? 改善できない?
→主な退職原因を探り、これを解消するよう試みよう
- 【問いC】スタッフ募集の方法は本当に万全か?
答え:求人方法に工夫の余地があるかもしれない
新たな問い1:どんな求人だったら「わくわく」するか?
→他業種の求人広告から学んでみよう
新たな問い2:既存スタッフの感じている「やりがい」ってなんだろう?
→既存スタッフにES(従業員満足度)アンケートを取ってみよう
新たな問い3:スタッフならではのメリットってなんだろう?
→当たり前だと思っていた宿泊施設スタッフならではの福利厚生をアピールしてみよう
問題の答えをいきなり見つけ出すのは、本当に難しいものです。
でも「問い」ならば色々と浮かびますよね。
そして「問い」が浮かべば、意外とそこから様々なアイデアが生まれるものです。
朝食問題の問いを考える
また別の問題について見てみましょう。
たとえば「朝食を残すお客様が多い」という問題を解決したい場合。
「問い」はどうなるでしょうか。
「なぜ朝食が残るのだろう?」
これだとやはり「問い」が大きすぎますね。
ベストなサイズの「問い」を考えてみます。
「夕食と比べてどうか?」
こんなところから始めてみるのはいかがでしょう。
すると「夕食は残すお客様がほとんどいないのに朝食は残りがち」という状況を発見するかもしれません。
そうなると自然に「同じ調理師の方が朝食と夕食を作っているのになぜそうなるのか」という次の「問い」が生まれます。
もしも朝食だけが不人気だとしたら、味の問題ではないことがわかります。
そこで生まれる「問い」は次のようなものです。
- 量は適切?
- ラインナップに不備はない?
- 朝食の時間帯は適切?
- 混雑の具合は問題ない?
- BGMは適切?
- 夕食メニューとのバランスは?(夜、重かったのに朝も重い、など)
BGMの話だけ少し補足が必要ですね。
これは私の体験談なのですが、ある飲食店に入ったときのこと。
接客も味も、とても良かったのです。
ただ、流れているBGMが激しすぎて耳に刺さりました。これが理由で、2回目以降の足が遠のいてしまう。そんなことがありました。
音楽は目に見えないものですが、居心地の良さに大きく関わる重要なファクターです。
例外を見つけて「問い」を作る
「問い」を作る際のアプローチ方法をもう1つご紹介しましょう。
それは「例外」を見つけて掘り下げるというやり方です。
引き続き「朝食が残る」という問題の例です。
この状況の例外の問いを考えてみます。
- 朝食を絶賛してくれた人はいたか?
- その人の年齢や性別は?
- 絶賛の理由は?
「朝食が残りがち」とは言っても、もちろん全員が残すわけではありません。
すべて食べてくださる方も、褒めてくださる方も確実にいるはずです。
そういう方に焦点を当て、ヒントを探っていく、というやり方です。
残るのに理由があるならば、残らないのにも理由がある、という発想ですね。
言い換えると、「残る」という問題解決に対して「残らないのはどういう場合?」という問いにヒントを求めるということです。
たとえば「一定の年齢層にだけ好評を得ている」ということがわかれば、各年齢層を想定した朝食ラインナップの整備、というアイデアが生まれるかもしれません。
例外の問いを考える、という方法。
これは、朝食問題に限らず、様々な問題解決のシーンで応用できます。
先の人手不足の例に置き換えるとこんな感じになります。
- やるべきことはいつもどおり多いのにバタつかない日があるのは何故?
- 長く勤めてくれているスタッフのモチベーションは何だろう?
- たまに来てくれる熱意ある就職志望者の志望動機は何だろう?
この答えを考えることで、ヒントが見えてくるような気がしませんか?
「問い」をアンケートに昇華する
こんなふうに、角度や粒度を適切に変えながら、様々な「問い」を見つけていくことが、問題解決にはたいへん役立ちます。
そして「問い」ができたら、次にその「答え」を探る必要があります。
もちろん、その場で「答え」が浮かぶ場合もあるでしょう。
しかし誰かに聞かなければ答えが出ない「問い」もたしかにあります。。
そしてお客様やスタッフに「答え」を求めるときに役立つのが、アンケートです。
もちろんそのときは上に挙げたような「問い」を、もうひと工夫する必要があります。
本音で答えてもらいやすい上手な聞き方にカスタマイズしてアンケートを行えば、その回答はきっと問題解決のヒントの宝庫になることでしょう。
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