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【コールセンター裏話】 「効く」新人スタッフの育て方

「異業種」の教育ノウハウ

※今回はアンケートのお話ではありません。

私はカスタマーサポート業界を約20年ほど経験してきました。
実はこの業界、とても成熟したトレーニングノウハウを持っているんです。

というのも、この業界は人材の出入りが非常に激しいのです。
新人が短期間で退職してしまい、また新しい人材が…ということも多々あります。

必然的に新人教育をする機会も増え、ノウハウが蓄積されていくというわけです。。

そんな業界に長く身をおいていたもので、新人教育を担当する機会もありました。
そして新人に「効く」育て方というものが色々と見えてきたんです。

今回はアンケートの話題を離れ、お宿のスタッフ育成に活用できそうな「トレーニングノウハウ」をご紹介します。

 コールセンタースタッフ

 

 

新人を育てる3つの手法

サポートの現場で身につけたノウハウは数多くあります。
今回はその中から、他業種でも活かせそうな3つの手法を厳選してご紹介します。

  1. 「目的」を共有する
  2. 「すごさ」を知ってもらう
  3. 「敬語」を語学のように学ぶ


それでは1つ1つ見ていきましょう。


「目的」を共有する

カスタマーサポートの目的とは

カスタマーサポートの目的は何だと思いますか?

「お客様の質問に答えること」でしょうか。

ミクロな視点で考えると、これも正解です。
でも、マクロな視点で考えてみると、また別の答えが浮かんできます。

「お客様の抱えている問題を解消すること」

これがマクロな視点での正解です。

お客様の抱えている問題。
それは「使い方がわからない」かもしれません。
あるいは「製品が正常に動かない」かもしれません。

いずれにせよ、すべてのお客様は「何らかの問題」を抱えて問い合わせをしてこられます。
それを解消することこそがカスタマーサポートの目的です。

困って電話をかけている女性

 

 

目的の共有の大切さ

「何が目的か」はわかりました。
では、この目的を共有することの大切さって、何でしょう?

カスタマーサポートの現場では日々、様々な難題が発生します。
それは時に一次対応のスタッフだけでは解決できないものもあります。

そんなときは、我々スーパーバイザー(SV)の出番です。
私たちは、一次対応スタッフからの相談を受けてアドバイスをします。
場合によってはその場で対応を交代したりもします。

こうした場面で必ず必要になるのが現状を伝えるための会話です。
そしてこのとき、目的が共有できていないと会話が成立しません。

すれちがう二人

 

 

「目的」が違えばすれ違う

ここで、現場での相談例をご覧ください。

OP:一次対応スタッフ
SV:スーパーバイザー

OP:
「本日購入した製品が動作しなくてお客様がお怒りです。修理対応は完了まで2週間かかるのでご納得いただけません。どうしましょうか」

SV:
「お客様は今すぐ使いたくてお困りだということ?」

OP:
「今すぐか使いたいかどうかはわかりません。でもすごくお怒りで修理にご納得いただけないんです。どうしましょう」

SV:
「修理にかかる期間は縮められないから、代替案を探ろう。たとえば貸出用の代品が明日届くならどうだろう。修理完了まではそれを使ってもらうという提案をしてみて」

特に序盤が少しちぐはぐな会話でしたね。
これは、OPとSVの目的にギャップがあったためです。

OPの目的は「お客様の怒りを鎮めること」「修理をご納得いただくこと」の2点です。
それに対して、SVの目的は「お客様の抱える問題を解消すること」です。
OPは、目の前にある「自分の問題」を意識するあまり、お客様の問題が目に入っていませんでした。

ところで、お客様の抱えている問題ってなんでしょう?
それは「購入した製品が使えなくて困る」ということです。

だからSVはこれをふまえて、以下の2点を探ろうとしています。

  • 実際に製品を使えなくてお客様が困るのはいつなのか
  • 修理完了まで代品があれば問題ないのか


この方針で進めていけば、きっと解決も近いことでしょう。

 順調に案内を進めるオペレーター

 

 

「目的」を合わせる

目的に対する認識を合わせると、お客様への初回の聞き取りが的確になります。
「どう対処していくべきか」という方針もぶれにくくなり、自ずと解決までの道筋がスムーズになります。

上の例では、決して新人スタッフ自身に問題があるわけではありません。
「目的」の捉え方がベテランと異なるのは、やむを得ないことです。
これはどこの業界でも同じこと。
教育する側が「そういうことがある」と意識しておけば大丈夫です。
そしてギャップを感じた時に、その都度正していけば良いでしょう。

貴館では新人スタッフさんと教育係の方の間に、会話のすれ違いはありませんか?
もしあるとすれば、「目的の共有」によって解消できるかもしれません。

では、宿泊施設の皆さんが共有すべき「お宿の目的」って、いったい何でしょう?
そして、それをどう新人さんに伝えていけば、お客様対応が上達していくでしょう?

これについては、私よりも皆さんの方が素晴らしい答えをお持ちだと思います。
よろしければスタッフの皆さまでディスカッションなどしてみるのもオススメですよ。

ディスカッションのイメージ

 

「すごさ」を知ってもらう

2つ目の手法は「熟練スタッフのすごさを知ってもらうこと」です。

「すごい!」
「あんなふうになりたい!」
「どうすればなれるんだろう?」

こんなふうに新人スタッフが考え始めた時点で、既に成長の大きな第一歩です。
カスタマーサポートの世界では、2つの方法で先輩スタッフの「すごさ」を伝えていきます。

  1. 熟練者の対応を隣で見る
  2. お客様の立場を体験する

それぞれ解説していきますね。


熟練者の対応を隣で見る

これは「モニタリング」という手法です。

電話対応をしている熟練スタッフの隣に新人が座ります。
新人は、モニタリング専用のヘッドセットを使います。
このヘッドセットには、熟練スタッフとお客様の両方の声が聞こえる機能があります。
お手本となる対応を、隣でじっと聞き続けるわけです。

  • どんな問いかけにどう答えるのか
  • どんな案件を保留にし、どんな案件を折り返しにするのか
  • 断るときの言い回し
  • 褒められたときの受け答え
  • 質問するタイミング
  • 説明をするときの間


モニタリングの場には、新人の成長のためのヒントが数多く隠されているんです。

ベテランスタッフの周りには成長のヒントがいっぱい

 

 

お客様の立場を体験する

これはいわゆるロープレ(ロールプレイング)の一種です。
一般的なロープレは、熟練スタッフがお客様の役を担い、新人スタッフのスキルをチェックします。
もちろんこれも有効ですが、ここでご紹介したいのは「逆」の手法です。

新人がお客様役として問い合わせをするのです。
熟練スタッフに対して様々な問いかけをし、それに対してどう答えるのかを、お客様として体験する。

  • どんなふうに説明されると理解しやすいのか
  • どんなふうにお願いすると聞き入れやすく感じるのか


これらを実感してもらうんです。
これは、宿泊業界でもそのまま活用できそうですよね。

たとえば、こんな方法はいかがでしょうか。
新人スタッフが宿泊客として「宿泊の予約」「チェックイン」「部屋での滞在」「チェックアウト」までを体験する。

お客様の立場で、熟練スタッフの振る舞いや案内トークを通して「すごさ」を体感するわけです。
これは応対スキルの習得にもつながりますし、お客様目線を手に入れるきっかけにもなります。

熟練スタッフのおもてなしイメージ

 

 

「敬語」を語学のように学ぶ

敬語を語学と考える

尊敬語・謙譲語・丁寧語

頭でわかっていてもなかなか使いこなせない…という新人スタッフも多いものです。
特にカスタマーサポートは電話対応。
言葉によるコミュニケーションがほぼすべてです。
言葉を間違えるわけにはいきません。

では、どうやって学ぶのか。
それは、敬語を語学の一種だと思うことです。

英会話のイメージ

 

英語の学習方法に学ぶ

たとえば英語を流暢に話せるようになるには?
ネイティブスピーカーとの会話を重ねることが近道ですよね。

ではそのファーストステップは?
ネイティブスピーカーのスピーチを聞くことです。
聞き取りができなければ会話ができません。

コールセンターでは、前述した「モニタリング」という方法でそれを行います。
たくさんの言葉(敬語)のシャワーを浴びることで、敬語に慣れていく。
次のステップは、実際に話してみる。
この繰り返しです。

英語を学ぶがごとく、敬語を学ぶのです。
英語では、3000語を覚えれば日常会話ができる、と言われています。

同様に、どの業界でも「覚えなければいけない敬語表現」の数はそう多くはないはずです。
皆さんも普段、お宿の仕事で使う敬語は限られているのではないでしょうか。
これらを語学のように覚えてしまおう、という試みです。


違和感を手に入れる

尊敬語、謙譲語、丁寧語…と頭で理屈を覚えることはもちろん大切です。
でも、必須ではありません。

ヒアリングとスピーキングを繰り返すと、間違った敬語には違和感を感じるようになります。
理屈で理解するよりも先に、口や耳が拒否するようになるんです。

たとえば私たち日本人は、日本語を話すときに「文法がどう」という前に「この言い方はヘン」と直感しますよね。
これと同じことです。


宿泊施設への応用

この語学的な敬語のヒアリング。
宿泊施設に応用するとすれば、どんな方法があるでしょうか。

  • フロントでの電話受けをそばで聞く
  • 熟練スタッフの接客トークをインカムで聞く


こんな方法が考えられますね。
もしかすると実際の現場をご存知の皆さんは、更にいくつもの方法が思い当たるかもしれません。
「敬語は語学」という発想で、ぜひ旅館やホテルならではの習得方法を考案してみてください。

フロントのベテランスタッフ

 

 

人の育ち方に業界差はない

ここまでのおさらいをします。

  1. 「目的」を共有する
  2. 「すごさ」を知ってもらう
  3. 「敬語」を語学のように学ぶ


この3つが、カスタマーサポート業界で私が活用してきたスタッフ育成のコツです。

どれもいざやってみると、実は言うほど簡単ではありません。
しかしいずれも実績のある手法ですので効果の程は確かです。
ぜひ現場にあった方法にカスタマイズしつつ、活用してみてください。

私は、新人が成長していくメカニズムというのはどの業界でもそう変わらないと思っています。
緊張して現場に配属されるのも同じ。
一刻も早く仕事に慣れたいと思っているのも同じなんですから。
上手に経験を積ませてあげれば、効果的に成長を手助けすることができるはずです。

そして成長の先にあるのは、やりがいを感じられるようになった新人の笑顔
更にその先にあるのは、お客様の笑顔です。
人が育てば、それだけ職場に笑顔が増えることにつながります。

今回ご紹介した手法がお役に立ちますように。
長文におつきあいいただきありがとうございました。