アンケート設計士の考えた「すごい質問」
今回のテーマは「すごい質問」
いつもクリアンコラムをご覧いただきありがとうございます。
おかげさまでこのコラムは好評を得ており、先日記念すべき第30回を迎えることができました。
これからも宿泊者アンケートにまつわるアレコレをわかりやすく解説していこうと思います。
ぜひどうぞお気軽にお立ち寄りください。
さて今回、31回目はアンケート制作の裏側のお話です。
当サービス「クリアン」内で「Q7.Q8」と呼ばれている設問があります。
「キューナナキューハチ」と読みます。
なんとも謎めいた符号ですね。
呼び名の由来は、その設問を最初に開発したときの設問番号です。
手前味噌ではありますが、なかなかに「すごい質問」が出来上がりましたので、ご紹介させてください。
「Q7.Q8」とは?
それでは、実際の問いを見てみましょう。
Q7.今回のご宿泊の満足度は10点満点中、何点ですか?
これがその設問です。
え…?
普通ですか?
たしかにこれだけ見ると、何の変哲もない設問に見えますね。
いったい何がすごいんでしょう。
…実は、肝になるのはこの後の設問です。
Q8 「これがあれば満点になるのに」ということがあれば教えてください
いかがですか?
わかりやすいように2つの設問を並べて記載してみます。
ぜひ、回答される方の気持ちになって眺めてみてください。
Q7.今回のご宿泊の満足度は10点満点中、何点ですか?
Q8 「これがあれば満点になるのに」ということがあれば教えてください
「Q7.Q8」が集めてくれるもの
それでは解説していきましょう。
結論から言うと「キューナナキューハチ」は、ネガティブコメントを集めるための設問です。
ネガティブなコメントには、耳の痛い言葉も含まれるものです。
しかし決して見過ごしてはいけない大切な「ヒント」の宝庫でもあります。
- 知らない内に悪評を生んでいた見えない問題点
- 心がけ1つ(つまりノーコスト)で解決できる改善アイデア
- 良かれと思って行っていたサービスの「別のとらえ方」
実にいろいろなことが見えてくるはずです。
受け止め方にコツはいりますが、「聞かない方が良い」ということは絶対にないのがネガティブコメントなんです。
参考:【宿泊者アンケート】ネガティブコメントの上手な受け止め方
とはいえ、いざ集めようと思ってもなかなか効率的に集まらないのがネガティブコメント。
たしかに書く方の身になってみれば、書きやすい内容ではありませんよね。
それを上手に実現するのが、「キューナナキューハチ」方式なんです。
なぜ10点満点なのか
では、Q7から詳しく見ていきましょう。
Q7.今回のご宿泊の満足度は10点満点中、何点ですか?
ここで回答者は、1点から10点までの中から選択します。
ところで満足度を問う設問の方法としては、5段階が一般的ですよね。
- たいへん満足
- 満足
- どちらとも言えない
- 不満
- たいへん不満
これも極めて理にかなっていて、決して悪い聞き方ではありません。
でも、ここではあえて10点満点の採点形式。
なぜでしょうか。
それは、言葉による5段階評価では満点がつきやすいからです。
皆さんもアンケートを回答する側に立ったとき、「たいへん満足」をつけることが意外と多いのではないでしょうか。
「満点はいいことなんじゃないの?」
…という声が聞こえてきそうですね。
でも、満点ではダメなんです。
先程お伝えしたように、設問の肝はQ8です。
Q8 「これがあれば満点になるのに」ということがあれば教えてください
この質問を言い換えるなら「どうしたら満点になりますか?」ということです。
これが聞きたいのです。
そのためには回答者に「少し足りないところ」を意識して貰う必要がありますよね。
だから「たいへん満足」ばかりになりがちな5段階評価は避けたいんです。
直接的な質問では答えが得られない
アンケートでの設問というのは難しいものです。
聞きたいことをストレートに聞いても、なかなか答えは返ってきません。
「当館の改善点を見つけたい」
そう思ったとします。
そのとき、いちばん直接的な質問の仕方はこうです。
当館の改善すべき点をご記入ください
アンケートにこの設問があったとき、果たしてどのくらいの方が答えを書いてくださるでしょうか。
そこそこ強い意志(使命感)がなければ、ちょっと書き出しにくいですよね。
「○○が○○になっていたらよかったのに」
尋ねる側としてはそんな声が集まることを期待しての質問ですが、身構えられてしまい、なかなか思うようにはいかないものです。
潜在意識へのアクセス
でも「キューナナキューハチ」方式であれば、いかがでしょうか。
Q7に答える時点でまず、回答者は満足度を採点します。
ここで多くの方は、10点満点をつけにくいはずです。
理由は以下の2点です。
- 10段階評価である ※5段階より小刻み
- 言葉ではなく数字である ※数値なので厳密であろうとする
「なかなか良い」と感じるサービスを受けた場合は、「8」や「9」をつける方が多いでしょう。
そのとき、すかさず「満点になるにはどうしたら?」と聞かれれば、回答者は自然と自分自身に問いかけることになります。
「なぜ自分は満点をつけなかったんだろう?」
「何が足りないと感じたのだろう?」
それまで本人すら意識していなかった部分にアクセスできるようになるんです。
これが「キューナナキューハチ」方式の真価です。
結果として「足りないもの」が浮き彫りにされ、ネガティブコメントを上手に集めることができるようになります。
注意したい点
この方式でアンケートをとるとき、気をつけなければならない点が2つほどあります。
最後にこれを解説します。
設問の分岐
1つは、設問の分岐です。
満点をつける方は少ない、と書きましたが、もちろんゼロではありません。
満点をつけた方にはQ8を見えないようにする必要があります。
もっと言うならば「1点や2点」をつけた方に「どうすれば満点に?」という聞き方もあまり適してはいません。
ちぐはぐな感じになってしまいますよね。
これらを解決するためには、設問が分岐する必要があります。
- Q7が低評価の方向けの設問→Q8aへ
- Q7が高評価の方向けの設問→Q8bへ
- Q7が満点の方向けの設問→Q9へ
こんなふうに設問を枝分かれさせることで、自然な心地よいアンケートが仕上がります。
このような体裁は紙アンケートではなかなか難しいです。
Webアンケートでこそ活用したい機能ですね。
満足度の平均値
2つめの注意点。
それは、Q7の点数の平均化です。
やってはいけないということはありませんが、あまり意味をなしません。
「満足度を10点満点で答えてください」という聞き方は、設問の中に「基準」が設けられていません。
つまり「何をもって1点とするか」「5点と6点の違いは?」などが不明瞭な質問です。
「キューナナキューハチ」方式のQ7は、あくまでもQ8の答えを引き出すためのものですから、基準を設ける必要性がなかったのです。
でもそれゆえに、回答者は主観によって採点するしかありません。
同じ程度の「満足」を得ていた人であっても、「5」をつけるか「6」をつけるかは人によっても異なるでしょうし、その日の気分によっても変わるかもしれません。
そのため、すべての回答を集計して平均値を出したとしても、あまり意味のある数字にはなりません。
データとしてとらえるよりは、1つ1つの回答に向き合うための設問。
それが、「キューナナキューハチ」方式なのです。
注意点は以上の2点です。
実際にご活用される際、気に留めておいていただければ幸いです。