「過去・未来・もしも」から考えるアンケートの設問発想術
アンケート設問設計の基本
宿泊者アンケートの設問設計の基本的な考え方は「過去を知り未来を作る」です。
- どんな体験をしたか
- どんな感想を持ったか
- どのくらい満足できたか
- 何を問題だと感じたか
尋ねるのは、すべて「過去に起きたこと」です。
これらをうまく聞き取り、お宿の未来づくりに活かします。
でもアンケートって、実はもっと多くの可能性があるものだと思うのです。
改めて考えてみると、アンケートにできることはたくさんあります。
アンケートの可能性を広げる
アンケート設計の幅を広げるために持っておきたい考え方。
それは、「過去」・「未来」そして「もしも」です。
この3つを意識しながら設問設計をすると、手に入れられる情報がぐんと豊かになります。
それでは1つ1つ解説していきましょう。
過去を問う質問
先程、アンケート設問の基本として「過去に起きたこと」を尋ねるというお話をしました。
ここではもう一歩、考えを進めてみます。
「過去・未来・もしも」という3つのアプローチ方法。
1つ目の「過去」は、「過去に起きた(感じた)こと」と「その理由」を考えていただくような質問です。
たとえば、貴館で事前チェックアウト制を導入開始したとしましょう。
この仕組みのメリットは主に2点あります。
・チェックアウト時のお客様の待ち時間を減らす
・混雑を減らしスタッフの負荷を軽減させる
導入によって「スタッフの負荷が軽減したかどうか」は比較的わかりやすいものです。
では、宿泊客様の心理はどうでしょう?
これを知る機会は意外と少ないですね。
そこで、こんなアンケート設問はいかがでしょうか。
【例1】
- 事前チェックアウトは利用しましたか? はい / いいえ
- なぜ利用されましたか?(or なぜ利用されませんでしたか?)
【例2】
- 事前チェックアウトは利用しましたか? はい / いいえ
- 利用してみてのご感想をお聞かせください。
- なぜそう感じましたか?
「なぜ〇〇しましたか?」
この聞き方がポイントです。
「なぜ?」。ここまで尋ねることで、しっかりとしたフィードバックを受けることができます。
せっかく導入した新しい仕組み。
良い効果が出ているかどうか知りたいですよね。
未来を問う質問
「お宿の未来を考える」
これは主に宿泊施設側のお仕事です。
これをあえて、宿泊客様にも一緒に考えていただこうというアプローチ方法が2つ目「未来」です。
「他人ごと」が一気に「自分ごと」になり、親近感を持っていただけるという効果もあります。
たとえば、こんな質問です。
「当館では、温浴施設のさらなる充実を目指しております。
どうすればさらにご満足をいただけるようになると思いますか?」
直前に、現在の施設への満足度を尋ねる質問があるとなお良いですね。
不満のある人も、満足感の高い人も、それぞれご自身の満足度を踏まえて「もっとこうしてみては?」と発想してくださいます。
また現在、お宿が考えている施策を選択肢として用意するのも良さそうです。そのときは「その他」の記載欄を設けることをくれぐれもお忘れなく。
参考:宿泊者アンケートでついついやってしまいがちな「ずるい質問」
未来を問う、というこの種の質問は、もしかすると回答数が多くないかもしれません。
しかし少数だとしても、いただけた回答は確実にお宿の未来づくりのヒントになることでしょう。
「もしも」を問う質問
3つめは「もしも」です。これが一番わかりにくいかもしれませんね。
ここまで考えてきた「過去」と「未来」は、あくまでも現在をベースとした前後関係にあります。つまり、地続きの話です。
これに対して「もしも」というのは、文字通り「仮定」の話です。
過去・現在・未来という一連の流れを離れて自由な発想で回答いただきます。
たとえば…
もしも温泉旅館と併設されていたら嬉しいのはどんなお店ですか?
郷土料理店 / 工芸品店 / 陶芸教室 / スポーツジム / 書店 / その他( )
あらかじめ用意している5つの選択肢は「呼び水」です。
言い換えれば発想を膨らませていただくための素材に過ぎません。
本命は「その他」です。いくつもの選択肢があることで「自分だったら○○があると嬉しいな」と発想しやすくなります。
きっと思いがけない答えもいただけることでしょう。
この質問はもちろん、併設するお店の誘致をするためではありません。
お客様のニーズを知り、それに近いアクティブティやコーナーを館内に準備するための情報集めという狙いがあります。
- 「郷土料理店」が多票を獲得→ご夕食やご朝食のメニューに郷土料理を加えてみる
- 「陶芸教室」が多票を獲得→予約制で陶芸体験のアクティビティを用意してみる
- 「書店」が多票を獲得→館内に簡易的なブックラウンジを設置してみる
こんなふうに、多くの人が感じているニーズを汲み取り、できる範囲で実現していくと、顧客満足度が高まっていくことでしょう。
「もしも○○だったら」という質問は、人をワクワクさせるものです。
宿泊客様も、きっと楽しく答えていただけると思います。
「旅館にもあったらいいのに」と思うものはなんですか?
…なんていう質問も良いかもしれませんね。
他の施設には当たり前にあるもので、旅館にはまだないもの。
「異業種に学べ」という言葉もあります。
まだ他の旅館にないものを取り入れることは、それだけでオンリーワンになりやすいということでもあります。
ビジネススキルからの発想
今回は「過去」「未来」「もしも」という切り口でアンケート設問の発想法を見てきました。
実はこの発想法の元になったのは、一般企業での業務改善の考え方です。
問題解決手法のステップとして「現状の把握」と「対策の立案」というものがあります。
この2つを結ぶのに必要なのが「適切な質問」を作ることなんです。
適切な質問を作る際にベースとなるのが、以下の3つです。
- なぜ○○なんだろう?
- どうしたら○○できるんだろう?
- もしも○○だったらどうなるだろう?
この問いを重ねることで、効果的な対策の立案ができるようになります。
ふと、これを思い返し「もしかしてこれはアンケートの設問設計に役立つのでは?」と考え始めたのがきっかけです。
新しい発想のヒントは、意外と思いがけないところに隠れているものですね^^
今後もアンケートづくりのお役に立つような情報を発信していきます。
「こういうテーマのコラムが読みたい!」などご要望などありましたらぜひ「お問い合わせ」からご連絡ください。
長文にお付き合いいただきありがとうございました!